ストレスと共に生きる

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北海道では九月五日に台風二十一号が通過し暴風雨となった矢先、翌九月六日には北海道胆振東部地震が発生しました。そして全道が一斉に停電する事態に見舞われました。今も余震は続いています。震災被害がまだ収束していない地域もあります。

震災に限らず、私たちの身の回りには様々なストレス要因があります。そして、同じストレス要因にさらされても、みんなが一律に同じ反応を示したり、一斉に病気にかかることはないと言われています。例え似たような被害にあっていたり辛い目に遭遇していたとしても、元気でいられる人もいれば、精神的にまいってしまう人まで様々です。

人にとって有害な刺激のことをストレッサーと呼びます。ストレッサーをストレスだと感じるか否かは、個人差があると言われています。人間はだれでもストレスに抵抗する力を持っていて、その力のことを「ストレス耐性」と呼びます。「ストレス耐性」が強い人ほど、ストレッサーにさらされても、ストレスと感じにくいと言われます。過去にどんな経験をしてきたのかでも耐性に違いが出ます。人生で様々な挫折を経験し、そこから這い上がったり耐えたりする中で「ストレス耐性」が強くなる人もいます。逆に、挫折経験がない人ほど、「ストレス耐性」ができておらず、挫折した時に弱いとも言われます。どんなストレッサーに強いのか、あるいは弱いのかも人によって違います。また同じストレッサーでも、性格の違いや、それをどう受け取りどう考えたかの違いによっても、ストレスだと感じるかどうかが変わってきます。生きていくうえでストレス要因は無数に存在し、なくなることはありませんから、ストレスについて知っておくのも対処への第一歩です。

人がストレッサーに晒されるとどうなっていくのか。実は、ここはみな一定の経過をたどる事が知られています。私たちが大なり小なり持っている「ストレス耐性」には限界があります。もし、その人が持っている「ストレス耐性」の限界より少ないストレッサーにさらされている状態であれば、余力があるのでストレスがたまってきてもさほど大きな問題や変化はありません。しかし、さらにストレスが溜まり続けたらどうなるでしょう。限界近くまでいくと、私たちの体の抵抗力が弱り始めます。ストレッサーに負けてしまいそうです。しかし、不思議なことにこの時点で負けたりはしません。弱まった状態でストレッサーに耐え続けていると、今度は、身体が非日常的な臨戦態勢モードに自動的に切り替わってくれるのです。弱まった体の防御反応が、今度は一気に高まります。この時、体の免疫力も高まることが知られています。血圧や血糖値は上昇し、体温も上ります。肉体的にとても強靭になり病気になりにくくなります。このように、私たちの体は最後の力を振り絞ることができ、簡単にはストレッサーに負けないシステムが備わっているのです。

さて、この最後の力を振り絞っている時にストレッサーが消え去ってくれたら大成功ですが、そうはいかない場合もあります。ストレッサーに対抗する体の防御システムは実はそう長く続きません。もし、ストレッサーに晒される状態が長期化した場合、もろく崩れてしまいます。あるいは、ほんの少しでもそこに別のストレッサーが加わってしまった場合も防御システムは崩れます。この時、人間は、肉体的にも精神的にも大変弱い状態になります。戦う力も抵抗する力も出し尽くし、疲労困憊し、病気にもかかりやすくなります。このような状態をこじらせると、慢性的な精神的病に移行してしまうことが知られています。

ですから、ストレッサーにさらされている時、今自分はどんな状態にあるのかを考えながら対処することが肝心です。もし臨戦態勢のぎりぎりのラインで戦っている時であれば、それ以上余計なストレスがかからないよう負担を減らしたり頼まれ事を断ることも必要です。ストレスを軽減させる簡単な方法として、リラクゼーション法が有効だと言われています。簡単にできるのが腹式呼吸法です。腹式呼吸は、ゆっくりと鼻から息を吸った後、口から息を吐き出します。時と場所を選びませんのでぜひ試してみてください。また、私たちは、そのストレス状況に対処できるだろうと予測がつくだけでも楽になります。ですから、例えば震災時のストレスを軽減させる簡単な方法として、防災の準備も一つの手です。物理的な対策が人のこころに影響を及ぼします。最低限の防災知識や、事前準備で不安や心配がある程度軽減できます。

大きなストレッサーが去った後、すぐ張りつめていたものが緩む人もいれば、しばらく緊張感が取れず、少ししてからだんだんと緩んでくるという人もいます。震災の場合、本震直後から心身に何も変化がみられず、最後まで平常時と同じ状態で経過する人もいます。本震が去った後、少し緊張が緩み始めてきた矢先に余震が起こると、いつも以上にドキッとしたり過敏に反応してしまう場合もあります。非日常的なストレッサーにさらされた後のこうした反応は、非常事態での正常な反応と言われていて異常ではありません。いつもと違うなと感じたら、自分なりにリラクゼーションを試みるといいかもしれません。それでも心配や不安が強いようであれば、学生相談室のような相談できる場所を利用してみるのも手です。

ストレスの感じ方や反応の仕方は様々あるので、どの反応が正しいとかおかしいとかはありません。みんな違いがあります。違うことも理解しながら、人々がともに支え合い、ストレスと共存していくことが大事になるのではないでしょうか。

(一粒の麦 No.59 2019年3月)

ストレス学説は、生理学者のセリエから始まりました。彼は、ストレスを引き起こす刺激をストレッサーとし、そのストレッサーによって生体に歪みが生じて、その有害性に適応しようとすることを全身適応症候群(適応症候群)と呼んだのです。この歪みに対する反応が、いわゆるストレスです。

その後、ストレス学説はラザルスによって完成します。彼は、人と環境の相互作用や認知的評価を重要視して、ストレスコーピングの理論を体系化しました。ストレスと上手に付き合うための方法、あるいはストレスに対処するための行動を、ストレスコーピングと言います。意外と知られていないことがあります。晩年のラザルスは、ストレスのナラティヴに注目しました。研究の終着として、ストレスを感じている生きた人間の語りにたどり着いたのです。

ストレスという言葉は、私たち庶民の間に広く、深く浸透しています。誰もがストレスという言葉を口にして、自分の苦痛を表現するようになったのが現代であると言えるでしょう。同じように、ストレス学説は、カウンセリングの流派を超えて広く浸透していると言えます。そのため、ストレスのカウンセリングは認知行動療法を専門にするカウンセラーだけでなく、その他の認知を扱わないカウンセリングを専門とするカウンセラーであっても対応可能であると思います。来談しようとお考えのカウンセリング・ルームに、どうぞお問い合わせください。札幌市内のカウンセリングルームには、臨床心理士・公認心理師が運営しているところがいくつもあります。ストレス・カウンセリングをお求めの方は、ぜひご相談ください。

[追記 2019年8月]

 

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2019年04月01日