怒りとのつきあい方

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みなさんの中には、腹が立って相手に暴言を吐いたり、怒って誰かに八つ当たりするなどして、後悔した経験を持っている方もいるのではないでしょうか。なんとか怒りに振り回されないで生きるにはどうしたらいいのでしょう。

怒りは人間に備わった感情の一つです。ですから、これがなくなったりすることはありません。怒りは、喜びや悲しみと同様に人間に与えられている大事な感情体験です。感情は、私たちに様々なことを教えてくれます。感情があるからこそ、人はたくさんの対象の中から、自分にとって価値があるものを見つけることもできます。自分にとってとても大切な対象には愛情を感じます。自分にとって重要ではない対象に対しては感情は動きません。怒りも感情の一つですから、自分にとって特別な何かが起こった時に経験されます。怒りは、その時の状況や場面が、自分のこころの中にある何かに触れた時、その意味を知らせてくれるサインとしても働いています。ですから、私たちにできることは、怒りがわき起こらないようにするのではなく、怒りに振り回されないように、怒りの感情と上手に付き合っていくことなのかもしれません。それはいわば怒りを手なずけコントロールするということです。

怒りをコントロールすると言うと、様々なあり方がイメージされるでしょう。例えばA君の場合です。彼は自分の怒りをコントロールできていると言います。ところが、彼は日々大変な辛さを感じています。A君は小さい頃、怒ってばかりいたので、仲間から疎まれてしまいました。A君はこの経験を経て、自分の気持ちをそのまま表現するのはいけないことで、そうすると人から嫌われてしまうのだと悟ります。彼は、それ以降、自分の感情を表に出さないようにしようと決めました。たとえ怒りがわいてきても、怒っているというそぶりを一切見せず、いつもニコニコしてみんなとつきあってきました。これは一見怒りをコントロールしているように見えますが、実はそうではありません。怒りがないふりをしているだけです。このようなあり方をそのまま続けていくと、いつかどこかでつまずきを経験することにもなります。周囲に与えるメッセージは常に偽りなわけですから、周りの人はA君に対して誤解をします。例えどんなに面倒な仕事を頼んでもA君はいつもニコニコ引き受けてくれるので、きっとそういうことが苦にならない人なのだろうと見られます。どんどん人が嫌がることや面倒な仕事を頼まれ、A君は「なんで自分だけ面倒な仕事を…」と怒りを募らせる羽目になります。

一方、怒りに振り回されてしまうあり方は、周囲に迷惑を与えることも多く、不適応的な反応となってしまいます。怒りが相手への直接的な攻撃という形をとると、ドメスティック・バイオレンスや、デートDVと呼ばれる問題の加害者にもなってしまいます。時には、犯罪にまでエスカレートしてしまうかもしれません。

怒りとの上手なつき合い方の一つとしては、直接暴言を吐いたり暴力をふるったりするのではなく、自分が内面で経験している感情を正直に表現する仕方を学び、試みることが挙げられます。人が腹を立てたときに口にしやすい表現は、たとえば相手に対する命令や指示や脅迫といった形になりがちです。命令に該当するような発言は「うるさい、向こうへ行ってろ」「出て行け」などです。また、「わかってくれないなら別れるから」とか「買ってくれないなら家出してやる」などは相手への脅迫的な発言です。こういう発言は、相手の抵抗や反抗心を生み、対立がますます深くなります。そして非難の応酬が続いてしまいます。このような発言の多くが、「悪いのはあなただ」と、相手を責める言い方だからです。このようなタイプの発言を「あなたメッセージ」と呼んだりします。

一方、怒りがわいてきた時、「わたしメッセージ」と呼ばれている言い方を使うと、問題がこじれるのを防いでくれます。これは、今自分はどう感じているのかを正直に表明するというメッセージです。例えば、明日に試験を控え試験勉強をやっている最中に、友達から電話がかかってきたとします。話の内容は急ぎの用件でもないし、本当はさっさと電話をきりあげて勉強に戻りたい。しかし相手はなかなか電話を切ってくれない。夜も更けてきて、勉強する時間がどんどんなくなってくると、次第にイライラしてきます。人によっては、どんなにイライラしても相手に嫌われないようニコニコしながら話を聞き続けるかもれません。あるいは、イライラの限界に達し「いい加減じゃましないで。忙しいんだから。あなたみたいに暇人じゃないの」と攻撃をぶつけるかもしれません。「わたしメッセージ」で言う場合は、「私は今晩試験勉強をやらないといけない。時間がなくなってきて焦ってきているの。今はとてもしゃべる気になれないのだけど」のようになります。この言い方は、相手に命令や指示をしているわけではありません。自分が今どういう感情状態なのかを相手に伝達しているだけです。

実は、怒りの感情が出てくる前には、がっかりしたり、困ったり、恥ずかしくてとまどったり、悲しんだり、こころの傷つきを感じたりしていることが多いものです。最初にそのような感情が出てくるのですが、それを表現できなくて、怒りが二次的な感情としてわいてくる場合が少なくありません。「わたしメッセージ」では、怒りが出てくる前の感情がいったいどういうものなのか、自分のこころの中ではいったいどんな気持ちが動いているのか、これに注目をします。そうすると、自分が本当に経験している感情が見えてきます。そして、それを相手に表明するのです。これは、自分の内面にある感情を表明するわけですから、勇気もいりますし、すぐにうまくできるというものではありません。しかしこのような言い方を使えば、問題がこじれることは減り、相手と話し合うこともできますし、かつ自分が怒りに振り回されることがなくなっていきます。怒りへの対処は様々ですが、まずは、そこに怒りがあることをしっかり認め、そして怒りと上手に付き合っていきたいものです。

(一粒の麦 No.49 2014年3月)

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2019年04月06日