雑談とリラックス

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普段、私たちがなにげなくやりとりしている会話の多くは雑談です。雑談は、目的やテーマが特に決められておらず、その場で即興のやりとりがなされていきます。友達同士の雑談などは、堅苦しくならず、むしろ、思うままに話題が進んでいくので、みんな楽しむことができます。

しかし最近、こんな学生さんが結構います。例えば「話すことが何も浮かばないから、自分から積極的に友達に声をかけるのにも躊躇する」「友達グループには所属できたけれど、仲間関係の中でおもしろい話しができない。みんなが関心を寄せてくれるような気の利いた雑談ができない」「自分が話した時、友達がつまらなそうだった。自分の会話に自信がなくなる」などです。なんだかとても大変そうです。問題になっているポイントは様々ですが、本来は楽しく自由な雑談のはずが、辛く不快な体験になっている人もいるようです。

インターネットの用語から派生した言葉に「コミュ障」があります。これは「コミュニケーション障害」を略した言葉で、正式な精神医学的病名を指すわけではありません。ですからこの言葉の捉え方も人それぞれです。人とまったく目もあわせられず言葉も発することができない状態の人が「自分はコミュ障です」と言うこともあれば、友達もいっぱいいて、おしゃべりも大好きなのに「自分はコミュ障です」と言う人もいます。この言葉を友達と使って楽しんでいるうちはいいのですが、かなり深刻にとらえている人の中には、生活の中で様々な苦労をしていることもあります。例えば、「自称、コミュ障」の人の中には、電話での応対が苦痛なことも多くみられます。電話は、音声情報しか受け取ることができず、相手の表情や態度などといった音以外の情報がないため、今、相手はどんな状態でしゃべっているのかを把握できず不安が倍増してしまうからです。また、普段の雑談の中でも、趣味の漫画やアニメの話しなら友達と盛り上がれるけれど、それ以外の話題で雑談したことがなく、私生活のことや、今悩んでいることなどは一つも話せないという人がいます。そのため、困った状況になっても誰にも相談できず孤立してしまうのです。また、雑談が苦手な人は美容室に行けないという問題もあります。たいていの美容室では美容師さんが髪の毛を切りながら雑談をしてくれます。しかし、雑談ができない人は、話しかけられても、どうしゃべっていいのか分からず困ってしまうのだそうです。やっとの思いで返答したとしても「今の言い方は変だと思われただろうか」「さっき自分が言ったあのセリフはもしかしてまずかったかなぁ」と自分の発言への後悔や心配がうずまいてしまう人もいます。結局、何度か似たような経験をするうちに、髪を切りに行くことができなくなってしまうのです。

さて、どうして雑談で苦痛になるのでしょうか。それぞれその理由はあるにしても、多くの場合は緊張が強くなるせいです。自分が発した言葉で「馬鹿にされたくない」と思ったり、あるいは、「つまらない人だと思われたくない」「嫌われたくない」「おかしい人間と思われたくない」といった意識が過剰に働きます。そうすると、雑談の時に肉体的にも精神的にもリラックスできていない状態になってしまいます。人はリラックスしている時にこそ高いパフォーマンスを発揮することが可能です。緊張した状態だと、イメージは貧困になり、脳内の情報ネットワークにも制限がかかってしまいます。そうすると、何も浮かばない、相手の話が瞬時に頭に入ってこない、記憶や情報入力に歪みが生じてくるなどが起こります。もちろん本人も心に余裕がなくなり、楽しい気分ではいられなくなります。雑談対策として、事前に話題を準備するだとか、話術を鍛えるなどの技術習得も一理ありますが、むしろ、身体やこころをリラックスした状態にして相手と接することができるようになる方がいいかもしれません。まずは、自分が安心して話せる相手を見つけ、その人との雑談を楽しんでみてはどうでしょうか。

また、もともとおしゃべりが苦手という人は、しゃべることを頑張ろうとすればするほど緊張が高まってくるので、むしろ逆に相手の話を聴く技術を向上させるほうが楽になる場合があります。人間は、自分が話をしている時にそれを聴いてうなずいてくれる人や、話した内容に良い評価を与えてくれる人に好感を持つものです。ですから、相槌や質問をちょっと工夫するだけで、相手はどんどんしゃべってくれるようになり雑談は盛り上がります。エッセイストの阿川佐和子さんの本には、『聞く力』というベストセラーがあります。そこには、人の話を聴く時に役立つ様々なヒントが載っています。例えば、日本人は相手の反応をいちいち細かく確認しながら話しをしたい傾向があるので、聴く側は無言ではなく、「うんうん」「そうそう」「それでそれで」など相槌を言葉にするとよいとか、小さな相槌でも誰かの人生に影響する一言になることがあるので、きちんと相槌を打つよう心がけているとか、話しを聴きながら、もしも相手になぐさめの言葉を伝えるような時は、言葉を発するまで二秒くらい間を開けるとちょうどいいなどが載っています。

このように、人の話しを聴くコツなどをちょっと頭の片隅にいれておくだけでも緊張は下がるかもしれません。せっかくの雑談タイムです。多くの人がリラックスして雑談を楽しめるようになるといいなと思っています。

(一粒の麦 No.54 2016年9月)

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2019年04月03日