思春期・青年期の友達

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人と人との関係性にはさまざまあり、その中でも友達関係は極めて日常的かつ大切な関係ではないかと思います。では友達関係とはどのような関係性を指すのでしょうか。「友達」を広辞苑でひいてみると「親しく交わっている人」などの意味が記されています。ずいぶん漠然としています。「親しさ」といってもその程度は、個人の感覚にまかされており、友達とはどういうものなのかは、人によってもずいぶん違うのではないかなと思います。絶対の信頼をおける相手、一緒に飲みに行ったり遊びに行く相手、誰にも言えない秘密や深い話をできる相手、思っていることを言い合えたり喧嘩できる相手、困った時に支えあう相手、などなどいくつもでてきます。友達とは、具体的にこういう関係だとはっきりしたものがないので、その質もイメージもバラエティに富んでいると思います。

私はカウンセラーですので、悩みを持って相談に来る人たちの話を日々聴いています。現代人のストレスの原因の多くは人間関係であると言われますが、まさにその通りで、人間関係に悩んで相談に来られる方は相当数おります。また、大学生の場合、直接人間関係に関わりのない問題で相談にみえた人であっても、友達関係のあり方がその解決に影響を及ぼすことがしばしばあります。友人関係があるか否かが、問題状況の好転につながることもあるし、悪化を招くこともあります。

思春期・青年期の人たちにとって友達関係は、非常に重要なものです。社会の中で人間関係を作っていく一歩として重要な役割を持っているのが友達関係です。子ども時代の家族関係中心だった人間関係から離れ、外の世界に対人関係を作っていく際、最初の人間関係の多くは同年の仲間関係です。そこでさまざまな人間関係のありようを経験します。ある人は、好き勝手な言動を示してばかりいたら、いつの間にか友達から仲間はずれにされるという経験をしたので、相手の立場を考え、自己中心的な振る舞いを続けないよう気をつけるようになったと言います。友達との経験をふまえ、本音と建前を身につけ始めるのも思春期・青年期です。

友達関係は、他者と自分との関係性ですから、自分がいくら理想的な関係性を夢見ても、現実にはそのようにいかない場合もあります。自分の都合だけでうまく関係が発展してはいきません。ある青年はこんなことを言っていました。自分は消極的であまりしゃべらないので高校時代からなかなか友達ができなかったけど、大学に入り1人だけ友達ができたと言います。しかし「自分から見れば友達だけど、相手からすると私は友達ではないと思う」と言います。よくよく聞いてみると、相手の青年はコミュニケーション上手で、周囲にはたくさんの友達が集まり、いつも人の輪の中心にいる人だそうです。その人がたまたま自分の近くに座った時に声をかけてくれたのだそうです。そのため、「相手にすれば自分は大勢の仲間のうちの1人であって、自分のことをかけがえのない友達とは感じていないだろう」と言うわけです。自分が相手を友達だと思っていさえすればそれでいい、そんな一方通行の関係だけで人は満足はできないようです。

青年期には、「誰かから必要とされたい」「誰かのかけがえのない存在になりたい」と願う人が多いものです。思春期・青年期には、他者に存在価値を見出されることで自分に自信を得たり、生きる意味を得たりすることがしばしばあります。この年代は、子どもから大人になっていく成長過程で、身体だけでなく、自分自身の内面も大きく変化します。そのような状況では、「自分はこれでいいのだろうか」「自分はどんな人間として存在したいのだろうか」など、自己のあり方に意識が集中しやすく、また、考えも揺らぎ不安定です。そんな不安の多い状況の中で、誰かに必要とされるという経験は心の支えとして働くのかもしれません。

ある高校生は、ずっと友達として親しくしていた相手が、実はブログに自分の悪口を書いているのを知り、ショックを受け、絶交したと言います。このような友達関係での傷つき体験は、その後の人との関わり方にさまざまな影響を及ぼします。友達関係でのトラブルや問題の原因を自身の中に見つけてしまう人は、自分のこれまでの言動を責めて自己嫌悪したり、それが過剰になりすぎると自分の存在すべてを否定し、打開の道を見失う場合もあります。あるいは、他者に問題の原因を見つけ相手を責める場合もありますが、特定の友達との間で起きた経験が、人間関係全般でも起きるのではないかと警戒心が過剰に広がり、人間不信のような状態になることもあります。逆に、関係を修復したり、その時の経験を生かすことで友達関係をより深めていく場合もあるのではないでしょうか。

どんなに面倒なことが多かったり複雑なことがついてまわったりしても、友達関係というものは今も昔も変わらず大切なものではないかと思います。特に、思春期・青年期の人たちにとっての友達関係は、お互いがお互いの人生に大きな影響を及ぼしあう存在になることがしばしばあります。やっかいなこともありますが、時にそれは豊かな人生を送るためのかけがえのない宝にさえなる場合もある。そんな、さまざまな体験を内包しているのが友人関係なのかもしれません。

(一粒の麦 No.43 2011年3月)

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2019年04月12日